「取引先へのお断りメールに『あしからず』と書いても大丈夫だろうか……」
「丁寧な言葉だと思って使っていたけれど、実は失礼にあたらないか不安だ」
今、この記事を読んでいるあなたは、送信ボタンを押す直前でそんな迷いを抱えているのではないでしょうか。
結論から申し上げます。
取引先や目上の人に対して「あしからず」を使うのは、原則としてマナー違反です。
なぜなら、「あしからず」という言葉には「こちらの事情を悪く思わないでくれ」という、自分勝手なニュアンスが含まれているからです。
私はこれまで、大手企業の秘書室長として、またビジネスコミュニケーション講師として、1万人以上の若手社員にマナーを指導してきました。
その経験から断言できるのは、「あしからず」を卒業し、相手を尊重する言葉を選べるようになるだけで、あなたのビジネスパーソンとしての信頼度は劇的に向上するということです。
この記事では、なぜ「あしからず」が失礼にあたるのかという理由から、相手に「仕事ができる」と思わせる魔法の言い換え表現まで、具体的かつ実践的に解説します。
読み終える頃には、あなたは自信を持って、相手の心に届くお断りメールを送れるようになっているはずです。
[著者情報]
執筆:田中 一郎(たなか いちろう)
ビジネスコミュニケーション講師。元大手製造メーカー秘書室長。25年間にわたる秘書業務の中で、数々のVIP対応や難易度の高い交渉を経験。現在は「相手の懐に入るメール術」をテーマに、年間100回以上の企業研修を行う。著書に『評価を下げないためのお断りマナー完全ガイド』がある。
なぜ「あしからず」はビジネスで「危ない」言葉なのか?
実は、私自身も入社2年目の頃、大きな失敗をしたことがあります。
急ぎの依頼を断るメールの最後に、良かれと思って「あしからずご了承ください」と書き添えたのです。
数日後、先輩を通じてお客様から「田中さんのメールは、なんだか突き放されたように感じるね」というフィードバックをいただきました。
当時の私はショックでした。
丁寧な定型句だと思い込んでいた言葉が、実は相手との距離を広げていたのです。
なぜ「あしからず」がこれほどまでに「危ない」言葉なのか。
それは、この言葉の語源に理由があります。
「あしからず」は古語の「悪(あ)しからず」に由来し、直訳すれば「悪く思わないでください」という意味になります。
一見、謙虚に聞こえるかもしれません。
しかし、ビジネスの文脈では「こちらの都合で断るけれど、それを悪く思うなよ」という、自分の非を棚に上げて相手に理解を強要するニュアンスとして伝わってしまうのです。
特に、立場が上の人やお客様に対して使うと、「なんて自分勝手な言い草だ」と不快感を与えてしまうリスクが極めて高いのです。

【結論】「あしからず」を使って良い場面・ダメな場面の境界線
ビジネスにおいて、言葉の適切さは「相手との関係性」と「状況」によって決まります。
「あしからず」と「取引先・目上の人」という組み合わせは、敬意が不足するため不適合です。
一方で、すべての場面で「あしからず」が禁止されているわけではありません。
以下の表で、使用可否の境界線を整理しました。
📊 比較表
【相手・シーン別「あしからず」使用可否チェックリスト】
| 相手・シーン | 使用可否 | 理由と判断基準 |
|---|---|---|
| 取引先・顧客 | × NG | 相手に配慮を強いるため、極めて失礼にあたります。 |
| 上司・目上の人 | × NG | 「悪く思うな」というニュアンスが、生意気な印象を与えます。 |
| 親しい同僚・後輩 | △ 注意 | 冗談めかして使う分には良いですが、基本は避けた方が無難です。 |
| 不特定多数への告知 | ○ OK | 「売り切れの際はあしからず」など、事務的な断り書きには使われます。 |
| 公式な謝罪の場 | × NG | 誠意が伝わらず、火に油を注ぐ結果になりかねません。 |
このように、「あしからず」はあくまで「事務的な告知」や「対等以下の関係」で使われる言葉です。
若手社員が、大切な取引先に対して使うべき言葉ではないことがお分かりいただけるでしょう。
相手を不快にさせない!「あしからず」に代わる魔法の言い換え表現5選
「あしからず」が使えないとなると、どのようにお断りすれば良いのでしょうか。
ここで重要になるのが、「クッション言葉」を活用して、相手の立場を尊重する表現に置き換えることです。
お断りメールの質を高め、あなたの評価を上げる5つの言い換え表現を紹介します。
- 「ご了承いただけますようお願い申し上げます」
- 活用シーン: 納期や仕様の変更など、あらかじめ理解を得たい場合。
- 効果: 「あしからず」よりも格段に丁寧で、相手に承諾を仰ぐ姿勢が伝わります。
- 「ご容赦(ごようしゃ)ください」
- 活用シーン: こちらの不手際や、どうしても対応できないことへの許しを請う場合。
- 効果: 「あしからず」の代替として最も汎用性が高く、謙虚な印象を与えます。
- 「ご希望に沿えず心苦しいのですが」
- 活用シーン: 依頼を断る際の冒頭に添えるクッション言葉。
- 効果: 相手の期待に応えたいという気持ち(共感)を示すことで、角を立てずにお断りできます。
- 「ご賢察(ごけんさつ)いただけますと幸いです」
- 活用シーン: 複雑な事情を察してほしい、高度な配慮を求める場合。
- 効果: 相手の洞察力を敬う表現であり、非常に知的な印象を与えます。
- 「何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます」
- 活用シーン: 組織としての決定事項など、最終的な理解を求める締めくくり。
- 効果: 重厚感のある丁寧な表現で、ビジネスメールの結びとして最適です。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: お断りの際は、言葉の前に「恐縮ですが」や「誠に勝手ながら」というクッション言葉を必ず添えてください。
なぜなら、この一言があるだけで、メール全体の印象が「一方的な通告」から「申し訳なさを伴うお願い」へと劇的に変わるからです。多くの若手社員が定型句の選択にばかり目を向けがちですが、実はこの「枕詞」こそが、相手の心理的ハードルを下げる鍵となります。
【実践】そのまま使える!シチュエーション別「お断りメール」例文集
ここでは、若手社員が直面しやすい具体的なシーンを想定した、言い換え例文を紹介します。
「あしからず」という自分本位な表現を、相手への配慮が詰まった文章に書き換える方法を確認してください。
シーン1:無理な納期短縮の依頼をお断りする場合
× 悪い例(評価を下げる)
「あいにくですが、ご指定の納期での対応はいたしかねます。あしからずご了承ください。」○ 良い例(信頼を築く)
「せっかくのご依頼ではございますが、諸般の事情によりご指定の納期での対応が叶いません。ご希望に沿えず誠に心苦しいのですが、何卒ご容赦いただけますようお願い申し上げます。」
シーン2:予算オーバーの案件をお断りする場合
× 悪い例(評価を下げる)
「弊社の予算を上回るため、今回は見送らせていただきます。あしからず。」○ 良い例(信頼を築く)
「慎重に検討いたしました結果、誠に残念ながら今回は予算の都合により見送らせていただくこととなりました。諸事情をご賢察いただき、ご了承賜りますようお願い申し上げます。」
FAQ:よくある疑問「あしからずご了承ください」なら丁寧?
よく「『ご了承ください』を付ければ丁寧になるのでは?」という質問をいただきます。
しかし、答えは「いいえ」です。
「あしからず」と「ご了承ください」を組み合わせても、根本にある「悪く思うな」という上から目線のニュアンスは消えません。
むしろ、丁寧な言葉を使いながら一方的な要求をしているように聞こえ、相手によっては「慇懃無礼(いんぎんぶれい)」と感じさせてしまう恐れがあります。
ビジネスメールにおいて大切なのは、形式を整えることではなく、「相手がこの文章を読んでどう感じるか」を想像することです。
迷ったときは、「あしからず」を思い切って削除し、「ご容赦ください」や「ご理解いただけますと幸いです」に置き換える勇気を持ってください。
まとめ
「あしからず」という言葉の危うさと、それに代わる適切な表現について解説してきました。
- 「あしからず」は取引先や目上の人には原則NG。
- 理由は「悪く思うな」という自分本位なニュアンスが含まれるから。
- 「ご容赦ください」や「ご了承いただけますよう」など、相手を尊重する言葉に言い換える。
マナーとは、相手を大切に思う気持ちを形にすることです。
あなたが今日、この記事を読んで「あしからず」の使用を思いとどまったその配慮こそが、信頼されるビジネスパーソンへの第一歩です。
さあ、自信を持ってメールを書き直してみてください。
あなたの丁寧な一言が、相手との絆をより深いものにしてくれるはずです。
[参考文献リスト]
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「あしからず」は「悪く思わないでほしい」という意味。相手に配慮を求める言葉であり、目上の人に対して使うのは不適切とされる。
出典: 「あしからず」の意味と使い方 – NHK放送文化研究所
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敬語の基本は、相手への敬意と配慮を示すことにある。自己中心的な表現を避け、相手の立場に立った言葉選びが求められる。
出典: 敬語の指針 – 文化庁, 2007年
- 日本ビジネスメール協会 公式サイト
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