「痛い、痛いよぉ……!」
公園で転んで膝を擦りむいたお子さんの泣き声に、胸が締め付けられるような思いをしたことはありませんか?
急いで家に戻り、救急箱を開ける。
そこにある「ガーゼ」を手に取ったとき、ふと手が止まる。
「これ、傷口に直接当てていいんだっけ?」
「バイ菌が入ったりしないかな?」
……そんな不安が頭をよぎった佐藤結衣さんのようなお母さんは、決して少なくありません。
一方で、肌の弱いお子さんのために「ダブルガーゼで優しいマスクやパジャマを作ってあげたい」と手芸店へ足を運ぶ。
けれど、いざ洗濯したら無残に縮んでサイズが変わってしまった……という失敗も、ガーゼという素材の「正体」を知らないがゆえに起こる悲劇です。
こんにちは。
衛生材料アドバイザーの織田恵美です。
私は医療メーカーで15年間、病院用ガーゼの品質管理に携わってきました。
現在はその経験を活かし、ベビー向け布小物の作家としても活動しています。
この記事では、医療メーカーの厳格な安全基準と、プロの手芸家が教える「縮ませない」技術を、お母さんの視点で一つにまとめました。
この記事を読み終える頃には、あなたはドラッグストアでも手芸店でも、もう迷うことはありません。
家族の健康を守り、愛情を形にするための「正しいガーゼの扱い方」を、私と一緒にマスターしていきましょう。
✍️ 著者プロフィール:織田 恵美(おだ えみ)
衛生材料アドバイザー / ハンドメイド作家
医療機器メーカーにて15年間、JIS規格に基づく衛生材料の品質管理・製品開発に従事。退職後、自身の育児経験から「肌に優しい暮らし」を提案するワークショップを主宰。医療用ガーゼの専門知識と、年間100点以上のベビー小物を製作する技術を併せ持つ。
「どれも同じ」は大間違い?子供の怪我と手作りに潜むガーゼ選びの落とし穴
「医療用って書いてあるから、どれを買っても安心よね」
かつての私も、専門知識を持つまではそう思っていました。
でも、実はここに大きな落とし穴があります。
私がアドバイザーとして相談を受ける中で、最も胸が痛むのは「良かれと思ってした処置が、逆に症状を悪化させてしまった」というケースです。
例えば、お徳用の大容量ガーゼ。
実はこれ、多くが「未滅菌(みめっきん)」といって、無菌状態ではないものなんです。
これを開いた傷口に直接当ててしまうと、化膿の原因になることもあります。
また、手芸でも「ガーゼは縮むものだから仕方ない」と諦めていませんか?
100円ショップなどで手軽に買えるガーゼの中には、見た目を白く見せるための「蛍光増白剤」が使われているものもあり、お肌の弱いお子さんが口に入れるものには注意が必要です。
「守るためのルール(医療)」と「慈しむためのコツ(手芸)」。
この2つを正しく使い分けることが、失敗しないガーゼ生活の第一歩です。
傷口には必ず「滅菌済」を。医療メーカー出身者が教える、家庭で守るべき安全基準
子供の擦り傷や切り傷など、「開いた傷口」に使用するガーゼにおいて、最も重要なのは「滅菌(めっきん)されているかどうか」です。
ここで、医療用ガーゼの国家規格である「JIS T 5201」という言葉を覚えておいてください。
ドラッグストアで売られているガーゼの多くはこの規格に準拠していますが、用途によって「滅菌ガーゼ」と「未滅菌ガーゼ」という、全く異なる2つの製品が存在します。
- 滅菌ガーゼ(個包装): 高圧蒸気などで微生物を完全に死滅させたもの。傷口に直接触れても安全です。
- 未滅菌ガーゼ(お徳用パック): 衛生的に製造されていますが、無菌ではありません。傷口を覆う「当て布」や、清拭用として使います。
家庭での応急処置には、吸水性と肌触りのバランスが良い「タイプI」と呼ばれる規格の滅菌ガーゼを常備しておくのが正解です。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 傷口にガーゼが張り付いて剥がすのを痛がる場合は、「パッド付ガーゼ」を選んでください。
なぜなら、普通の織布ガーゼは乾燥すると傷口の組織と一緒に固まってしまうからです。表面に穴あきポリエチレンフィルムなどが貼られた「固着防止パッド」タイプなら、お子さんも痛がらずにスムーズに貼り替えができます。この小さな選択が、お子さんの「病院嫌い」を防ぐことにも繋がります。
洗濯したら縮んだ…を卒業!プロが教える「ダブルガーゼ」を長く愛用するための水通し術
次に、手芸や生活用品としてのガーゼについてお話しします。
佐藤さんのように「ダブルガーゼで小物を作ったのに、洗濯したら形が崩れた」という悩みの原因は、ガーゼ特有の「収縮率」にあります。
綿100%のダブルガーゼは、織りの構造上、水に濡れると糸が締まり、縦方向に約5〜10%も収縮します。
つまり、20cmのマスクを作っても、洗濯後には18cmになってしまう可能性があるのです。
これを防ぐための絶対条件が、裁断前に行う「水通し(みずとおし)」です。
📊 比較表
【水通しの有無によるダブルガーゼの変化(洗濯3回後)】
| 項目 | 水通しなし | 水通しあり(正解) |
|---|---|---|
| サイズの変化 | 5〜10%縮み、形が歪む | ほとんど変化なし |
| 肌触り | 最初はパリッとしているが、後でゴワつく | 最初から柔らかく、風合いが続く |
| 吸水性 | 糊がついているため、最初は弾く | 糊が落ち、本来の吸水力を発揮 |
失敗しない「水通し」5ステップ
- 浸水: たっぷりの水に、畳んだ生地を1時間ほど浸します。
- 脱水: 決して雑巾のようにねじり絞らないでください。手で優しく押して水気を切ります。
- 陰干し: 直射日光を避け、形を整えて干します。
- 地直し: 生地の目が歪んでいたら、優しく手で引っ張って整えます。
- アイロン: 生地の表面が少し湿っている状態で、ドライアイロンをかけて目をシャキッとさせます。
このひと手間を加えるだけで、あなたの作った小物は、洗濯を繰り返すたびにふんわりと肌に馴染む「一生もの」に変わります。
ママが知っておきたいガーゼのQ&A(100均素材や蛍光剤の真実)
最後に、ワークショップでよく受ける質問にお答えします。
Q. 100円ショップのガーゼは使っても大丈夫?
A. 用途によります。掃除や一時的な当て布には十分ですが、乳幼児の肌着や口に触れるものには、パッケージ裏の「ノン蛍光(蛍光増白剤不使用)」の表記を確認してください。安価なものには、白さを強調する染料が含まれている場合があります。
Q. 「不織布(ふしょくふ)ガーゼ」と普通のガーゼ、何が違うの?
A. 不織布ガーゼと織布ガーゼは、構造が全く異なります。
- 不織布: 繊維を絡めて固めたもの。糸くずが出にくく、傷口に張り付きにくいのがメリットです。
- 織布(普通のガーゼ): 糸を縦横に織ったもの。通気性と吸水性が抜群で、肌着やマスクに向いています。
「怪我の処置には不織布、身につけるものには織布」と使い分けるのがプロの推奨です。
まとめ:正しい知識は、家族への優しさ。今日から自信を持ってガーゼを選びませんか?
ガーゼは、私たちの暮らしに最も身近な布の一つです。
でも、その一枚の裏側には、家族の健康を守るための「科学」と、快適に過ごすための「知恵」が詰まっています。
- 傷口には、必ず個包装の「滅菌ガーゼ」を選ぶこと。
- 手作りする前には、1時間の「水通し」を忘れないこと。
この2つを覚えているだけで、あなたはもう、大切な家族を不必要なリスクから守り、最高の心地よさをプレゼントできる「ガーゼの達人」です。
次にドラッグストアや手芸店へ行くときは、ぜひパッケージの裏側をそっと覗いてみてください。
そこには、あなたが家族を想う気持ちに応えるための、大切なヒントが書かれているはずですから。
【参考文献リスト】
1. 一般社団法人 日本衛生材料工業連合会「ガーゼの知識」
2. 日本産業規格 JIS T 5201「医療用ガーゼ」
3. 白十字株式会社「家庭でのキズの手当て」
4. nunocoto fabric「ダブルガーゼの水通しのやり方と収縮率の実験」
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