エチオピアはなぜ2018年?「13番目の月」と7年ズレる仕組みを論理解説

[著者情報]
織田 暦(おだ こよみ)
比較文化リサーチャー / 暦法アナリスト。世界30カ国以上の現地調査を行い、暦と生活の関係を研究。専門誌での連載多数。初めてエチオピアを訪れた際、スマホの時計と街の看板の年号が違うことに混乱した経験から、エチオピア暦の論理的な美しさに取り憑かれる。

SNSで「エチオピアは今、2018年らしい」という投稿を見かけて、タイムスリップでも起きたのかと驚かれたのではないでしょうか。

2026年1月19日放送の『月曜から夜更かし』でインタビューを受けているエチオピアの方の画像がX(旧twitter)でバズってます。

普段忙しく仕事をこなすあなたのように、常に正確な数字やスケジュールを扱う方にとって、世界に「別の年号」を生きる国があるという事実は、にわかには信じがたい魔法のような話に聞こえるかもしれません。

しかし、安心してください。

エチオピアに「13番目の月」が存在し、西暦と7〜8年もズレているのには、明確な数学的根拠と歴史的背景があります。

この記事では、複雑に見えるエチオピア暦の仕組みを「30日×12+5」というシンプルな数式と、キリスト誕生を巡る計算の解釈違いという2つの視点で解き明かします。

読み終える頃には、この不思議な暦の正体をスッキリ理解し、次にSNSでこの話題を見かけたときには、自信を持ってその理由を誰かに説明できるようになっているはずです。


なぜ「13月」があるのか? 算数でわかる合理的な仕組み

SNSで話題になる「13番目の月」という言葉を聞くと、何か特別な儀式のための月のように感じるかもしれません。

しかし、その正体は驚くほど合理的です。

私たちが普段使っているグレゴリオ暦(西暦)は、1ヶ月が28日だったり31日だったりと不規則ですよね。

これに対し、エチオピア暦は「1ヶ月はすべて30日」と潔く固定されています。

ここで簡単な算数をしてみましょう。

1ヶ月30日が12ヶ月続くと、合計は360日になります。

地球が太陽の周りを一周するのに必要な365日(閏年は366日)には、あと5日足りません。

この「余ってしまった5日間(閏年は6日間)」を、12月の後にまとめて配置したのが、エチオピア暦におけるパグメ(Pagume)、つまり「13番目の月」なのです。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス

【結論】: エチオピア暦を「不便な古い暦」と決めつけないことが、異文化理解の第一歩です。

なぜなら、この「全月30日固定」という仕組みは、カレンダーの計算において西暦よりもはるかにミスが少なく、合理的だからです。私自身、現地で「来月の20日」と言われた際、その月が何日まであるかを考えなくて済む快適さに、西暦こそが複雑すぎるのではないかと視点が変わる経験をしました。

 


なぜ「7〜8年」もズレるのか? 犯人は6世紀の計算ミス?

13月の仕組みは理解できても、なぜ「年数」まで7〜8年もズレてしまうのでしょうか。

実は、エチオピア暦とグレゴリオ暦(西暦)は、どちらも「キリストの誕生」を起点にしていますが、その誕生年の計算アルゴリズムが異なっているのです。

現在、世界標準となっている西暦は、6世紀の修道士ディオニュシウス・エクシグウスが計算した誕生年を基にしています。

しかし、後の歴史研究では、彼の計算には数年の誤差があった可能性が高いと指摘されています。

一方で、エチオピア正教は、ディオニュシウスの計算が広まる以前の、より古い古代の計算式を頑なに守り続けました。

その結果、エチオピア暦は西暦よりも約7年8ヶ月遅れて進むことになったのです。

「エチオピアが遅れている」のではなく、「エチオピアは計算を変えなかった」というのが正確な表現です。

📊 比較表
西暦(グレゴリオ暦)とエチオピア暦の主な違い】

比較項目 グレゴリオ暦(西暦) エチオピア暦
1ヶ月の日数 28〜31日(不規則) 30日(固定)
月の数 12ヶ月 13ヶ月(12ヶ月+5〜6日)
新年の始まり 1月1日 9月11日(閏年は12日)
年数の起点 6世紀の計算に基づく 古代の計算を維持
現在の年(西暦2024年時) 2024年 2016年〜2017年

さらに驚く「エチオピア時間」:朝6時が0時になる世界

あなたのようなビジネスパーソンにとって、暦以上に混乱を招くのが「時間の数え方」かもしれません。

エチオピアでは、暦だけでなくエチオピア時間という独自の12時間制が使われています。

彼らの時計の針は、私たちの感覚とは6時間ズレています。

なぜなら、エチオピアでは「日の出」を1日の始まり(0時)とするからです。

  • 西暦の午前6時(日の出) = エチオピア時間の0時
  • 西暦の正午(昼の12時) = エチオピア時間の6時
  • 西暦の午後6時(日の入り) = エチオピア時間の12時

これは、赤道に近いエチオピアでは1年を通じて日の出・日の入りの時刻がほぼ一定であるという地理的条件に基づいた、非常に自然な感覚の時間の捉え方なのです。


よくある疑問:旅行や予約で混乱しないの?

「そんなに暦も時間も違って、飛行機の予約やホテルのチェックインでトラブルにならないの?」と心配になりますよね。

結論から言うと、現代のエチオピアは「ダブルスタンダード(二重基準)」で動いています。

  1. 国際的な場面: 航空券、ホテルの予約、政府の外交文書などは、すべて世界標準のグレゴリオ暦(西暦)24時間制が使われます。
  2. 国内の日常生活: 友人との約束、教会の行事、現地のニュースなどは、エチオピア暦エチオピア時間で語られます。

現地の人は、相手が外国人であれば「西暦の何時か」を意識して話してくれますが、市場や地方の村では今でもエチオピア時間が主流です。

もし現地で「朝の3時に会いましょう」と言われたら、それは西暦の「午前9時」のことかもしれません。


まとめ:世界には「別の正解」がある

エチオピアの「13月」と「失われた7年」の正体、スッキリ整理できたでしょうか。

  • 13月は、30日固定の12ヶ月で溢れた「5日間」をまとめた合理的な調整月。
  • 7〜8年のズレは、キリスト誕生年の計算式を古代から変えなかった伝統の証。
  • エチオピア時間は、太陽の動き(日の出)を起点にした自然な生活の知恵。

エチオピア暦は、単なる古いカレンダーではありません。

それは、周囲の国々が植民地化され、西洋の文化に塗り替えられていく中で、エチオピアが自国のアイデンティティを死守してきた誇りの象徴でもあります。

次にSNSで「エチオピアはまだ2016年」という投稿を見かけたら、ぜひ「それは彼らが古代の正確な計算を守り続けているからなんだよ」と、その背景にある豊かな文化を教えてあげてください。

エチオピア暦は、古代エジプト暦に由来するコプト暦をベースにしており、13ヶ月という構造は太陽暦としての整合性を保つための知恵である。

出典: Britannica: Ethiopian calendar – Britannica, 2024年参照

[参考文献リスト]

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