「また自分の手柄のように話している……」
「会議の空気が、あの一言で凍りついたのがわからないのか?」
チームリーダーとして、部下の過度なアピールやマウンティングに頭を抱えていませんか。
特に、他のメンバーから「佐藤さん、あの人の振る舞い、なんとかなりませんか?」と突き上げられ、板挟みになっている状況は、精神的にも非常にタフなものです。
結論から申し上げましょう。
自己顕示欲は「抑え込む」ものではありません。
心理学の知見を用いて「承認のルート」を戦略的に書き換えることで、コントロール可能な「エネルギー」へと変えることができます。
この記事では、元人事部長として数々の人格衝突を解決してきた私の経験に基づき、相手を傷つけず、かつ毅然と行動を是正させる「SBI型フィードバック」や、チームの士気を守るための「防衛プロトコル」を具体的に伝授します。
読み終える頃には、あの「厄介な部下」が、あなたのチームを牽引する「強力な戦力」に見え始めているはずです。
[著者情報]
執筆者:市川 巧(いちかわ たくみ)
組織心理学エグゼクティブコーチ / 元大手IT企業人事部長大手IT企業にて15年間人事部長を務め、累計3,000人以上の管理職へコーチングを実施。若手リーダー時代、自己顕示欲の強い部下を論破しようとしてチームを空中分解させた失敗を機に、組織心理学を修得。現在は「心理学を武器にするマネジメント」を提唱し、多くのリーダーの救世主となっている。著書『「困った隣人」をチームの戦力に変える技術』。
なぜ、あの人の「自慢話」はこれほど疲れるのか?自己顕示欲の正体
部下の過剰なアピールに接したとき、私たちはつい「なんて自信過剰なんだ」と不快感を抱きます。
しかし、組織心理学の視点で見ると、事実はその真逆です。
自己顕示欲の強さは、実は「自己肯定感の低さ」と密接に関係しています。
自分自身の価値を内面で信じ切れないからこそ、外側からの「すごいですね」という承認という名の報酬を、過剰に、そして強引に集めようとするのです。
彼らにとって、自慢話や手柄の強調は、自分を大きく見せるための「防衛反応」に他なりません。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 相手を「自信満々な攻撃者」ではなく、「不安を抱えた支援が必要な人」として観察してください。
なぜなら、相手を「敵」と見なすと、あなたの言葉には無意識に「拒絶」のニュアンスが混じり、相手の防衛本能をさらに刺激してしまうからです。心理学という眼鏡をかけ、相手の行動の裏にある「不安」を見抜くことが、掌握術の第一歩です。
【UVP】性格を否定せず行動を変える「SBI型フィードバック」の実践
「君のその性格、直したほうがいいよ」
リーダーとして最もやってはいけないのが、相手の「人格」や「性格」を否定することです。
これはハラスメントのリスクを高めるだけでなく、相手の自己肯定感をさらに下げ、結果として自己顕示欲を暴走させる悪循環を招きます。
そこで活用すべきなのが、SBI型フィードバックです。
これは、感情を一切排除し、以下の3つの要素に絞って伝える手法です。
- Situation(状況): いつ、どこで起きたことか
- Behavior(行動): 相手がとった具体的な言動(事実のみ)
- Impact(影響): その行動が周囲や業務に与えた客観的な影響
例えば、会議で他人の発言を遮った部下にはこう伝えます。
「今日の10時からの定例会議で(S)、Aさんの発言中に声を被せて自分の意見を話したね(B)。その結果、Aさんの説明が中断され、結論が出るのが10分遅れてしまったよ(I)」
このように、SBI型フィードバックは「自己顕示欲の是正」という目的において、感情的な衝突を避けつつ、相手に「自分の行動が招いた不利益」を客観視させる強力な手段となります。
📊 比較表
【感情的な注意 vs SBIフィードバックの比較】
| 比較項目 | 感情的な注意(NG) | SBIフィードバック(OK) |
|---|---|---|
| 焦点 | 相手の性格・人格 | 具体的な「行動」と「事実」 |
| 伝え方 | 「もっと謙虚になりなさい」 | 「〜という行動が、〜の影響を与えた」 |
| 相手の反応 | 反発、自己防衛、萎縮 | 事実の認識、改善への納得 |
| リーダーの負担 | 怒りやストレスが伴う | 淡々と事実を伝える「作業」になる |
タイプ別・そのまま使える「是正スクリプト」集
自己顕示欲の強い部下には、いくつかの典型的なパターンがあります。
それぞれの状況に応じた、角の立たない「是正スクリプト」を用意しました。
1. 「手柄横取り」タイプ
チームの成果を「私がやりました」と強調するタイプです。
- NG: 「自分一人の手柄みたいに言うなよ」
- OK: 「今回のプロジェクト、君の〇〇という分析(B)は確かに助かった。ただ、報告書で他のメンバーの貢献に触れなかったことで(B)、チーム内に『公平に評価されていない』という空気が生まれているよ(I)。次は全員の役割を明記しよう」
2. 「会議独占・マウンティング」タイプ
他人の意見を否定し、自分の知識を誇示するタイプです。
- NG: 「少しは黙って人の話を聞け」
- OK: 「先ほどの議論で、Bさんの案に対して即座に代替案を出したね(B)。君の知識量は素晴らしいが、Bさんが最後まで話し切る前に遮ったことで(B)、他のメンバーが意見を出しにくい雰囲気になってしまった(I)。次はまず最後まで聞き切ることから始めよう」
3. 「SNS・社内チャット自慢」タイプ
過度な自己アピールをデジタル上で行うタイプです。
- NG: 「SNSで目立とうとするのはやめろ」
- OK: 「チャットツールで深夜に自分の成果を連投していたね(B)。熱意は伝わるが、通知を受け取ったメンバーが『休めない』とプレッシャーを感じているようだ(I)。成果報告は明日の朝のミーティングで、公式な場で行ってほしい」
チーム崩壊を防ぐ「防衛プロトコル」:他のメンバーをどう守るか
リーダーであるあなたの最優先事項は、特定の個人の機嫌を取ることではなく、チーム全体の「心理的安全」を確保することです。
自己顕示欲の強い人物を放置すると、周囲の優秀なメンバーは「真面目にやっているのが馬鹿らしい」と感じ、離職のリスクが高まります。
これを防ぐための「防衛プロトコル」を導入しましょう。
- 「事実」に基づく評価の可視化:
誰がどのタスクを完了させたかを、ダッシュボードなどで可視化します。これにより、言葉によるアピール(自己顕示欲)の余地を物理的に減らします。 - 「貢献」への承認をルール化する:
「自分が何をしたか」ではなく、「誰を助けたか」を称賛する文化を作ります。承認の対象を「自己アピール」から「他者への貢献」へと強制的にシフトさせるのです。 - 個別フォローの徹底:
アピールの影に隠れてしまいがちな、控えめだが着実に成果を出しているメンバーに対し、「君の貢献はちゃんと見ているよ」と個別に、かつ具体的に伝える時間を設けてください。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 「個人の尊重」よりも「チームのルール」を上位に置いてください。
なぜなら、自己顕示欲の強い人は、ルールのない場所では声の大きさで支配しようとするからです。「このチームでは、事実と貢献のみを評価する」という明確な基準(プロトコル)を示すことが、結果として彼ら自身を救うことにも繋がります。
まとめ: 「扱いにくい人」を動かせるリーダーこそ、真のプロフェッショナル
自己顕示欲が強い部下は、裏を返せば「認められたい」という強いエネルギーを持った人たちです。
そのエネルギーが「自分」に向いているうちは厄介者ですが、あなたのマネジメントによって「チームの成果」へと向かわせることができれば、これほど頼もしい存在はありません。
今日から、彼らの言動に一喜一憂するのは終わりにしましょう。
まずは明日、彼らが何か過剰なアピールをしたときに、感情を脇に置き、「一つの事実(Behavior)」だけを淡々とフィードバックすることから始めてみてください。
あなたのその一歩が、チームの空気を変え、あなた自身を「プロのリーダー」へと進化させるはずです。
応援しています。
[参考文献リスト]
- 自己顕示欲が強い従業員の特徴と接し方 – HR NOTE
- 自己顕示欲とは?強い人の特徴や原因、上手な付き合い方を専門家が解説 – 悩ミカタ
- アンガーマネジメントの実践による効果 – 一般社団法人日本アンガーマネジメント協会
- 自己顕示欲とは? 承認欲求との違い、強い人の特徴と付き合い方 – カオナビ人事用語辞典
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