会議の席で、尊敬する上司が誰かの鋭い指摘に対して「それは言い得て妙だね」と一言。
その場の空気が一瞬で引き締まり、上司の知的な佇まいに憧れを抱いたことはありませんか?
「自分もあんな風に、気の利いた言葉を使いこなしたい」
そう思って、いざ自分が使おうとした瞬間に手が止まる。
「待てよ、これは目上の人に使っても失礼ではないだろうか?」という不安が頭をよぎるからです。
32歳、チームを率いるプロジェクトマネージャー(PM)として、言葉選びのミスで「礼儀知らず」のレッテルを貼られることだけは避けたいはずです。
結論から申し上げます。
「言い得て妙」は、本質的に「評価(ジャッジ)」のニュアンスを含む言葉です。
そのため、目上の人の発言に対して直接使うのは、マナー違反となるリスクが非常に高いのです。
しかし、諦める必要はありません。
本記事では、知的な響きを損なわず、かつ相手への敬意を保つための「リスクゼロの活用法」と、状況に応じた「知的な代替表現」を徹底解説します。
この記事を読み終える頃には、あなたはマナーの不安から解放され、自信を持って言葉を選べるようになっているでしょう。
[著者情報]
執筆者:市川 賢治(いちかわ けんじ)
ビジネスコミュニケーション戦略家 / 元・外資系企業役員秘書
15年間にわたり、外資系企業のトップエグゼクティブの側近として、言葉一つで信頼を築き、時には失う現場を数多く経験。著書『一目置かれる大人の語彙力』は、言葉の「立ち位置」に悩むビジネスパーソンのバイブルとなっている。現在は、中堅社員向けのコミュニケーション研修や執筆活動を通じて、教養と実利を兼ね備えた語彙力開発を支援している。
なぜ「言い得て妙」を上司に使うとヒヤリとされるのか?
私が秘書として駆け出しの頃、大きな失敗をしたことがあります。
役員会議で上司が放った見事な例え話に対し、良かれと思って「部長、今の表現はまさに言い得て妙ですね!」と満面の笑みで返したのです。
その瞬間、会議室の空気が凍りつきました。
上司は短く「……そうか」と言ったきり、私と目を合わせることはありませんでした。
なぜ、称賛のつもりで使った言葉が、相手を不快にさせてしまったのでしょうか。
その理由は、「言い得て妙」という言葉が内包する「評価(ジャッジ)」という性質にあります。
この言葉は、「(あなたが)言ったことは、非常に的を射ていて素晴らしい」という、いわば「採点」の構造を持っています。
日本語の敬語体系において、部下が上司を採点・評価することは、原則としてマナー違反です。
あなたがどれほど純粋に感動していたとしても、言葉の構造自体があなたを「審査員」のポジションに、上司を「被評価者」のポジションに置いてしまうのです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 言葉を選ぶ際は、その意味だけでなく「自分と相手のどちらが上の立場から発言しているか」という立ち位置を意識してください。
なぜなら、ビジネスにおける信頼関係は、能力の高さだけでなく、相手への敬意を「形」として示せるかどうかにかかっているからです。特に「言い得て妙」のような評価性の高い言葉は、知的な武器にもなれば、無礼な凶器にもなり得ることを忘れないでください。
「人」ではなく「状況」を語る。知的に使いこなす3つの鉄則
「言い得て妙」という言葉の知的な響きを活かしつつ、リスクを回避する方法は存在します。
それは、言葉の矛先を「人」から「状況・事象」へと転換することです。
以下の3つの鉄則を守ることで、あなたの発言は「失礼な評価」から「鋭い洞察」へと変わります。
1. 相手の発言ではなく「状況」を形容する
上司の発言そのものを褒めるのではなく、その発言が指し示した「複雑な状況」に対してこの言葉を使います。
- NG: 「部長のおっしゃることは、言い得て妙ですね」
- OK: 「今回のプロジェクトの混乱を『迷宮入り』と表現されましたが、現状はまさに言い得て妙だと感じました」
2. 第三者の言葉を引用する
上司以外の誰かが言ったことや、世間一般で言われているフレーズに対して使う分には、何の問題もありません。
- 例: 「競合他社が我々のサービスを『眠れる獅子』と評したそうですが、今の我々のポテンシャルを考えると、まさに言い得て妙です」
3. 自分の「気づき」として添える
「評価」ではなく、上司の言葉によって自分の視界が開けたという「感謝と納得」の文脈で使います。
- 例: 「今の部長のお言葉を伺い、この問題の本質がどこにあるのか、まさに言い得て妙だと深く腑に落ちました」
「言い得て妙」に代わる、上司に一目置かれる「知的な言い換え」リスト
上司の発言そのものの鋭さを称えたい場合、「言い得て妙」の代わりに使える表現はたくさんあります。
PMとして、状況や相手との距離感に応じてこれらを使い分けられるようになると、あなたの信頼度は飛躍的に高まります。
「言い得て妙」と主要な代替表現の関係性を整理しました。
【状況別・知的な言い換えマトリックス】
| 表現 | 知的な響き | 安全性(目上へ) | 最適な活用シーン |
|---|---|---|---|
| 核心を突く | 高 | ◎ | 会議で上司が本質的な指摘をした時。最も汎用性が高い。 |
| 至言(しげん) | 最高 | ◎ | 相手の言葉を「非常に優れた教訓」として最大限に敬う時。 |
| 腑に落ちる | 中 | ◎ | 相手の解説によって、自分の疑問が解消されたことを伝える時。 |
| 言い得て妙 | 高 | △ | ※人ではなく「状況」を形容する場合のみ推奨。 |
核心を突く(かくしんをつく)
「おっしゃる通り、まさに核心を突いたご指摘です」と伝えることで、相手の鋭さを認めつつ、自分もその本質を理解していることを示せます。
至言(しげん)
「今の部長のお言葉は、私にとってまさに至言です」という表現は、相手の言葉を「宝物のような言葉」として扱うため、最大級の敬意が伝わります。
腑に落ちる(ふにおちる)
「今の例え話で、長年の疑問がスッと腑に落ちました」と伝えるのは、評価ではなく「自分の変化」を報告する形になるため、上司にとっても非常に心地よいフィードバックとなります。
Q&A:こんな時どうする?ビジネス語彙力の悩み相談室
Q. 「おっしゃる通りです」ばかり言っていると、語彙力がなく見えませんか?
A. その通りです。同意するだけでなく、「おっしゃる通り、まさに〇〇(代替表現)ですね」と一言添えるのがPMの知性です。
例えば「おっしゃる通り、まさに核心を突いたプランだと感じます」と具体化する習慣をつけましょう。
Q. 英語で「言い得て妙」とかっこよく言いたい場合は?
A. 最も近いニュアンスは “Well said.” ですが、これも目上には少しカジュアルです。
上司に対しては “That’s a very apt description.”(非常に適切な描写ですね)や、シンプルに “I couldn’t agree more.”(全く同感です)を使うのがスマートです。
Q. 「的を射る」と「的を得る」、どちらが正解ですか?
A. 本来は「的を射る」が正解です。
「的を得る」も近年は許容されつつありますが、知的な印象を与えたいのであれば、語源に忠実な「的を射る」を使うべきです。
まとめ:言葉の立ち位置を制する者が、ビジネスの信頼を制する
「言い得て妙」という言葉に惹かれたあなたの感性は、素晴らしいものです。
それは、あなたが単なる情報のやり取りを超えて、言葉の持つ「美しさ」や「鋭さ」を大切にしている証拠だからです。
大切なのは、その武器を振り回すのではなく、「相手への敬意」という鞘(さや)に収めて使うこと。
- 「人」ではなく「状況」を形容する。
- 目上の人には「核心を突く」「至言」などの代替表現を使い分ける。
この2点を意識するだけで、あなたの語彙力は「教養あるビジネスパーソン」としての確固たる信頼に変わります。
今日から、次の会議で、まずは「核心を突く」という言葉から実践してみてください。
あなたの言葉選びの変化に、周囲は必ず気づくはずです。
[参考文献リスト]
- 文化庁, 「敬語の指針」 (2007)
- 小学館, 『精選版 日本国語大辞典』
- NHK放送文化研究所, 「最近の放送用語から:『的を射る』か『的を得る』か」
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