「トキ消費」を企画書に落とし込む。メーカー担当者のための「熱狂」設計フレームワーク

[著者情報]
飯田 拓也 (Takuya Iida)
戦略プランナー / 消費行動アナリスト。実務歴15年。大手飲料メーカーのSNSキャンペーンを多数手掛け、累計100万件以上のUGCを創出。「理論を現場の武器に変える」を信条に、FMCG業界のブランド戦略を支援している。

「次の新商品のプロモーション、流行りの『トキ消費』の要素を盛り込んで企画書を作っておいてくれ」

上司からそんな抽象的な指示を投げられ、デスクに戻って頭を抱えてはいませんか?

「モノ消費からコト消費へ」という言葉なら耳に馴染みがあるけれど、いざ「トキ消費」となると、具体的に何をどう設計すればいいのか、ましてや自社の商品である「飲料」という物理的なモノとどう結びつければいいのか、その論理的な飛躍に戸惑っているはずです。

結論から申し上げます。

トキ消費は、決してイベント業界やライブ配信だけの特権ではありません。

むしろ、私たちメーカーが扱う「モノ」こそが、その場限りの熱狂を生む最強のトリガーになり得るのです。

この記事では、博報堂生活総合研究所が提唱した概念をベースに、私が現場で培ってきた「モノをトキに変える3つの設計スイッチ」を伝授します。

この記事を読み終える頃には、あなたの企画書には「なぜこの施策が今の若者を熱狂させるのか」という揺るぎない論理的根拠が備わっているはずです。


なぜ「コト消費」の延長では失敗するのか?境界線は「非再現性」にある

「期間限定のフレーバーを出せば、それはトキ消費になるのではないか?」

「1日限りのサンプリングイベントを行えば、十分ではないか?」

私がマーケティングの現場で最も頻繁に受ける質問がこれです。

しかし、もしあなたがそう考えているなら、その企画は高い確率で空振りに終わります。

なぜなら、「コト消費」と「トキ消費」の間には、明確な「再現性」の壁が存在するからです。

かつて持て囃された「コト消費」の本質は、体験(DO)にありました。

しかし、SNSがインフラ化した現代、他人の体験はスマホ越しに高画質で「疑似消費」できてしまいます。

誰かが行ったカフェ、誰かが泊まったホテル。

それらはSNSで「既視感(デジャブ)」となり、わざわざ自分が足を運ぶ動機を削いでしまうのです。

そこで登場したのが「トキ消費」です。

トキ消費とコト消費の決定的な違いは、その体験が「いつでも・どこでも・誰とでも再現できるか」という点にあります。

トキ消費がターゲットとするのは、その瞬間、その場所にいる自分を肯定する「BE(存在)」の価値です。

デジタルで代替不可能な「ライブ感」こそが、既視感に飽きた若者たちの心を動かす唯一の鍵となります。

単なる期間の限定は「モノの都合」に過ぎませんが、トキ消費は「人の熱量の都合」で動くものなのです。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス

【結論】: 「何をさせるか(DO)」ではなく、「その場にいる自分をどう肯定させるか(BE)」に設計の主眼を置いてください。

なぜなら、この点は多くの人が見落としがちで、単なるイベント(コト消費)で終わってしまうからです。私は、飲料のサンプリングを「ただ配る場」から「参加者が自分の推し色を宣言して受け取る場」に変えただけで、SNSへの投稿率が5倍に跳ね上がった経験があります。この「自分を表現する場」という視点が、トキ消費への第一歩です。


【UVP】モノをトキに変える「3つの設計スイッチ」:非再現性・参加性・貢献性

では、具体的にどうやって「モノ」を「トキ」へと変換すればいいのでしょうか。

私は、博報堂が提唱する要素をメーカーの実務に即して再定義した、以下の「3つの設計スイッチ」を提唱しています。

1. 非再現性(今、ここでしか味わえない)

デジタルやアーカイブでは代替できない、時間と場所の制約を設けます。

ただし、単なる「期間限定」ではなく、「その瞬間の熱量に同期しているか」が重要です。

 

2. 参加性(自分もその場を作っている)

消費者が単なる「観客」や「受取人」ではなく、その場を構成する「当事者」になれる仕掛けです。

 

3. 貢献性(自分の行動が結果を変える)

自分の購買や行動が、その場の盛り上がりや、最終的な結果に影響を与えるという実感です。

これら3つの要素が組み合わさったとき、飲料という「モノ」は、熱狂的なコミュニティに参加するための「入場券」へと昇華されます。

 


飲料メーカーの成功事例に学ぶ。商品を「熱狂の入場券」に変えた具体策

イメージを具体化するために、従来型のプロモーションと、トキ消費型プロモーションの違いを比較してみましょう。

📊 比較表
従来型プロモーション vs トキ消費型プロモーション】

比較項目 従来型(コト消費) トキ消費型
主眼 商品の試飲・体験 (DO) その場への関与・存在 (BE)
再現性 期間中ならいつでも可能 その瞬間、その仲間としか不可
消費者の役割 サービスを受ける「客」 場を盛り上げる「当事者」
飲料の立ち位置 喉を潤す「目的物」 熱狂に参加するための「入場券」
成功指標 試飲数・認知度 UGC数・熱狂度・LTV

例えば、フレッシュネスバーガーが実施した「生き残りキャンペーン」は非常に示唆に富んでいます。

スタッフ人気最下位のメニューを「期間中に8位以内に入らなければ販売終了」と宣言したのです。

これは単なる割引キャンペーンではありません。

ファンは「自分の好きなメニューを存続させる」という貢献のために、非再現的な期間内に店舗へ足を運び、購買という形で参加しました。

飲料メーカーであれば、例えば「ライブ配信中の視聴者のコメント数に応じて、その場限定で解禁される新フレーバーの先行購入権」といった設計が考えられます。

「トキ消費」とは、その時・その場でしか味わえない盛り上がりに合流することを目的とした消費行動である。

出典: 【キーワード解説】「トキ消費」 – 博報堂生活総合研究所, 2017年


Q&A:上司を説得するための「トキ消費」3つの論理武装

企画書を提出した際、上司から飛んできそうな反論への回答案を用意しました。

Q1. 「一過性のブームで終わるのではないか?」

A: トキ消費は単なるブームではなく、SNSによる「体験の陳腐化」に対する生活者の構造的な防衛反応です。

既視感を打破し、ブランドへの深い愛着(LTV)を形成するためには、この「非再現的な熱狂」の設計が不可欠です。

 

Q2. 「イベントをやるのはコストがかかりすぎる」

A: リアルなイベントだけがトキ消費ではありません。

デジタル上でも「ライブ配信」や「リアルタイム投票」を組み合わせることで、低コストで非再現的な場を作ることは可能です。

重要なのは場所の確保ではなく、時間の共有設計です。

 

Q3. 「飲料という『モノ』の売上につながるのか?」

A: 商品を「喉を潤す手段」として売れば価格競争に巻き込まれますが、「熱狂への参加手段」として売れば、指名買いが生まれます。

実際に、推し活層のブランドロイヤリティは極めて高く、単なる認知拡大以上の売上貢献が期待できます。


「今、ここ」の熱狂を設計できるマーケターへ

「トキ消費」という言葉に振り回される必要はありません。

あなたがやるべきことは、手元にあるその飲料を、誰かの「今、この瞬間」を最高に輝かせるための道具に変えることです。

非再現性、参加性、貢献性。

この3つのスイッチを意識して、もう一度企画書を眺めてみてください。

単なる「モノ」の紹介だったページが、読んだ人をワクワクさせる「熱狂の招待状」に変わっているはずです。

さあ、勇気を持って「非再現性」の設計に踏み出しましょう。

あなたの企画が、新しい時代の熱狂を作ることを期待しています。


[参考文献リスト]

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