[著者情報]
執筆:市川 賢治(いちかわ けんじ)
ビジネスコミュニケーション戦略家。元 大手監査法人 危機管理コンサルタント。15年間にわたり、企業の不祥事対応やガバナンス構築を支援。「正しい言葉で組織を動かす」技術を提唱している。
「協力会社の重大なセキュリティ規約違反を見つけてしまった。すぐに報告しなければならないが、相手との関係を壊したくないし、上司に『大げさだ』と思われるのも避けたい……」
今、この画面の前で、報告メールの文面を何度も書き直しているプロジェクトマネージャー(PM)の方は多いはずです。
特に「看過(かんか)」という言葉を使おうとして、その重圧に指が止まってはいませんか?
結論から申し上げます。
「看過」は相手を攻撃するための言葉ではありません。
組織の規律を守り、あなた自身のプロフェッショナルとしての責任を果たすための「管理の武器」です。
この記事では、辞書的な意味を超えた「ビジネス実務における看過の強度調整術」を伝授します。
この記事を読み終える頃には、角を立てずに事態の深刻さを100%伝え、自信を持って送信ボタンを押せるようになっているはずです。
なぜ「看過」は重いのか?辞書には載っていないビジネス上の「責任」
「看過」という言葉をキーボードで打つとき、指先が少し重くなる。
その感覚こそが、あなたがプロとして責任を負っている証拠です。
私が監査法人で危機管理コンサルタントをしていた頃、数多くの企業の不祥事報告書を目にしてきました。
そこには必ずと言っていいほど「経営陣が現場の不正を看過していた」という一文が登場します。なぜ「見逃していた」ではなく「看過」なのでしょうか。
それは、看過(Kanka)と黙認(Mokunin)は、どちらも「知っていながら放置した」という不作為の責任を問う言葉だからです。
しかし、ビジネス文書において「黙認」は消極的な同意というニュアンスが強く、責任追及が苛烈になりすぎます。
一方で「看過」は、「注視すべき立場にありながら、そのまま通り過ぎた」という、職務上の注意義務違反を冷静に指摘する響きを持っています。
つまり、あなたが「これは看過できない」と発信することは、単にミスを指摘することではありません。
「私はPMとしての職務(善管注意義務)を全うし、組織のリスクを放置しません」という宣言なのです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 「看過」を使うことに恐怖を感じる必要はありません。むしろ、重大な局面でこの言葉を使わないことこそが、あなたのPMとしての信頼を損なうリスクになります。
なぜなら、この点は多くの人が見落としがちですが、プロフェッショナルな世界では「なあなあで済ませる人」よりも「守るべき一線を明確に示せる人」の方が、長期的には圧倒的に信頼されるからです。
【保存版】相手を動かす「看過」の強度調整マトリックス
「看過できない」という言葉は強力ですが、使い所を間違えると「角が立つ」原因になります。
プロのPMは、相手との関係性や事態の深刻度に応じて、言葉の「強度」を戦略的に調整します。
その核心となるテクニックが、「主語の変換(Itメッセージ)」です。
「私は看過できません」という「Iメッセージ」は個人攻撃に聞こえがちですが、主語を「組織のルール」や「状況」という「It(客観的事実)」に置き換えることで、相手の感情的な反発を最小限に抑えられます。

そのまま使える!リスク回避型メールテンプレート集
あなたが今直面している「協力会社への指摘」を含め、実務で頻出する3つのシーン別テンプレートを用意しました。
1. 協力会社へのセキュリティ違反指摘
件名:【重要】セキュリティ規約遵守に関する是正のお願い
〇〇様
いつもお世話になっております。PMの佐藤です。本日、貴社作業環境において〇〇の規約違反を確認いたしました。
本プロジェクトの機密保持規定に照らしますと、本件は看過し難い事態であると認識しております。つきましては、本日中に原因の特定と是正措置についてご報告いただけますでしょうか。
プロジェクトの安全な完遂のため、何卒ご理解とご協力をお願い申し上げます。
2. 上司へのプロジェクトリスク報告
件名:プロジェクト〇〇における進捗遅延リスクのご報告
〇〇部長
お疲れ様です、佐藤です。現在進行中のプロジェクトにおいて、〇〇の不備が判明いたしました。
今後のガバナンス維持の観点からも、本件を看過することはリスクが高いと判断し、早急に共有させていただきます。
比較表
【テンプレート活用のポイント解説】
| シーン | 重点を置くポイント | 使用する「看過」のフレーズ |
|---|---|---|
| 協力会社への指摘 | 規定との照合(客観性) | 「規約に照らし、看過できない」 |
| 上司への報告 | リスク管理(職務遂行) | 「看過することはリスクが高い」 |
| 取引先への警告 | 是正の強制(毅然とした態度) | 「到底、看過できるものではない」 |
FAQ:上司や取引先に「看過できない」を使っても失礼にならない?
最後に、あなたが最も不安に感じている「失礼にならないか」という疑問にお答えします。
Q: 目上の人に対して「看過できない」と言うのは、生意気だと思われませんか?
A: 「クッション言葉」と「主語の変換」を組み合わせれば、むしろプロとしての評価が上がります。
「看過できない」という言葉そのものが失礼なのではなく、それが「感情的な非難」として伝わることが問題なのです。
以下の2点を意識してください。
- クッション言葉を添える: 「忸怩(じくじ)たる思いですが」「職責上、申し上げにくいのですが」といった言葉を冒頭に置くことで、あなたが苦渋の決断としてその言葉を選んでいることが伝わります。
- 善管注意義務を背景にする: あなたがPMとして、プロジェクトを成功させる義務を負っていることを前提にします。「私が嫌だから言う」のではなく「プロジェクトを成功させるために、この事態を放置(看過)するわけにはいかない」という論理構成にしてください。
「看過」とは、単に「見る」ことではなく、その後に続く「行動」をセットにした言葉である。
出典: デジタル大辞泉 – 小学館
まとめ:言葉を武器にするPMへ。毅然とした報告が組織を救う
「看過できない」という言葉を選ぶことは、あなたが仕事に対して誠実であることの証明です。
- 看過は「不作為の責任」を問う重い言葉である。
- 主語を「私」から「規定・状況」に変えることで角を立てない。
- クッション言葉を使い、プロとしての職務遂行であることを示す。
迷う必要はありません。
あなたが今感じているその「指先の重み」こそが、プロジェクトを正しい方向に導くための羅針盤です。
用意したテンプレートを参考に、自信を持って報告を行ってください。
あなたの毅然とした態度が、最終的にはチームと組織を救うことになるのです。
[参考文献リスト]
- デジタル大辞泉「看過」 – 小学館
- 言葉に関する問答集 – 文化庁
- 企業の不祥事に関する第三者委員会報告書(各社公表資料) – 日本弁護士連合会(ガイドライン参照)
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